「ヤギ畜産の活性化に向けた、山里と自然界を区切る葛ベルト栽培」

 

 可愛いけど、臭いというヤギに対する日本の一般人の意識をいかに変えて、ヤギの乳製品や食肉の消費を拡大して、山里(人里)でのヤギ畜産を活性化させていくか、を日頃から考えているうちに、人里と自然界を区切る葛(くず)ベルトを、万里の長城の小型版のように構築したら、というアイデアが浮かんできた。

 

1.葛ベルト栽培の概要 

 

 一区切りは長さ50100メートル、幅810メートル、左右の2メートルを草路用、中央の4から6メートルを高さ3メートルまでに抑える二列の葛栽培にあてる、という図式である。

 左右の草路は定期的に簡易の柵で囲い、ヤギを放牧して、きれいに食べてもらう。秋口に葛周辺に増えるカメムシなどの害虫は、鶏を放って食べてもらう。問題点は野鹿や野ウサギなども葛ベルトの葉を食べてしまうし、冬場は猪が穴を掘って根株を食べてしまうことにあるが、罠を仕掛けてジビエとして食用にするか、山に放つ。

 

 葛はたちの悪い雑草、厄介者として毛嫌いする人も多いが、ツル科の葛の葉はヤギだけでなく、牛や馬、鶏も好んで食す(豚は不明だが)ので、牛、馬、鶏向けの飼料代の節約や補完飼料として活用できる。葉が枯れる冬場は土中の根株を三年から四年の周期で掘り出せば、葛粉の原料となる。秋に咲く赤い花は漢方薬や二日酔いや更年期障害に効果がある葛花茶となる。長く伸びるツルは、現在は静岡県掛川市などで生き延びているに過ぎないものの、ツルの繊維から糸を取り出して葛布や工芸品の素材となる。

 最大の起爆剤は葛の葉が牛の飼料として、どれだけの効果があるか否か、にかかっている。葛の葉を食べさせると、和牛肉の味が一段と増す、とか牛向けの飼料の二割から三割、少なくとも一割が葛の葉で賄えることが判明したら、畜産農家だけでなく、畜産業界全体が目の色を変えていくことになる。

 

 

2.日本でのヤギ飼育の基盤はできているが、

  課題はいかにしてヤギに対する認識を変えていくかにある

 

「全国山羊ネットワーク(Japan Goat Network)」愛知県春日井市の名城大学農学部付属農場フィールド内)のホームページを検索してみると、世界各地でのヤギの飼育や食し方、日本での状況など、的確にまとめられていて、ヤギ飼育に向けた基盤は日本でも出来上がっていることを肌で感じる。

 ヤギ肉を食べる食生活は沖縄諸島に限る、と思い込んでいたが、長野県南西部でも日常化していることに驚いたし《例 長野県飯田市南信濃の「肉の鈴木屋」長野県飯田市南信濃)》、一歳ほどのオスの子ヤギは高級レストラン向けの需要が高い。

 どうやら、世界的に見ると、ヤギの畜産や食肉・乳製品の消費が日常化していないのは、日本だけのようである。

 

 そこで日本でも人気が出て、消費が高まる商品や料理を考えてみた。

《乳製品》

 生ま乳 人間の母乳に最も近い。

 ヨーグルト・アイスクリーム類

 チーズ 牛乳製のカマンベールと同様。

     フォンダン(焼きチーズ)のトーストやサラダ添えは美容やダイエット効果がある。

     焼きヤギ・チーズバーガーは若者に人気が出そう。

     長期間寝かせた固チーズは酒のつまみに最適。

《食肉》

  ヤギ・カレー:カレーの本場インドのマトン・カレーの実際はヤギ肉カレー。

  焼き肉:特有の臭みを取る工夫を考案すれば、大人のヤギ肉でも食することができる可能性がある。

  ヤギ汁:焼き肉と同様に臭みをなくす工夫をする。

 

 

3.葛ベルト普及への課題と期待

 

 熊、野猿、野ウサギ、アライグマなどが葛ベルトを安々と越えて、人里を荒らしてしまう恐れを拭い去ることは出来ないだろうし、山里への野獣の侵入や被害は根絶できないだろう。しかし、葛ベルト地帯への人の出入りが頻繁になり、畜産関連事業が発展して、住人も増えていくならば、ベルトを超えて人里に侵入すると、身の危険にさらされる、といった学習効果が次第に浸透していき、被害が減少する期待が持てる。

 葛ベルトの拡大により、葛葉とツルの供給量が増えれば、ヤギだけでなく牛、馬、鶏の畜産向けの補完飼料が安価に入手できることになるし、葛糸を使ったファッション性が高い布地や工芸品の創作の発展、ヤギカフェ・レストランの営業などで、地域全体が活性化していく。ヤギの頭数が増えれば、荒れ地や河畔に繁る葛を食べつくしてくれるヤギ除草軍団の結成が容易になる。

 

 こうしたことを思い描いているうちに、ヤギと葛に対する一般的な認識は、「邪馬台国所在地論争」と共通性があることに気付いた。江戸時代の新井白石以来、三世紀以上にも渡り、なぜ邪馬台国所在地論争に決着がつかないか、の理由は「邪馬台国は大和か九州か」に固執するだけで、「大和は邪馬台国の敵国、狗奴(葛)国だった」とする見解が無視されるか、タブー視されて来たにすぎなかったから、といった図式に類似している。

 

 ヤギと葛に対する誤解や蔑視といった固定概念をいかに肯定的、建設的な認知に変えていくか。とりあえずは、農林水産省への働きがけで助成金の確保などで体制作りを実現する。票につながるとなれば、政治家もほっておくことはできなくなる。 

 葛ベルトの構想は素人の私の思い付きにすぎない、と一笑にふされるだけだろうが、熊や猪,鹿など野獣の被害が深刻な市町村単位で、葛ベルト構築の試みを実施してくれたら、と切望している。